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「その場での検査」に役立つ簡易・高感度な免疫測定チップの開発に成功!

神奈川科学技術アカデミー 株式会社森永生科学研究所

ポイント

少量のサンプルで、迅速・簡便・低コストに定量的な分析が可能な免疫測定(注1)チップの開発に成功しました。
抗原と結合した抗体と、結合していない抗体の効率的な分離を、電圧をかけることで発生する液体の流れ(電気浸透流(注2))を利用して行うことで、従来の免疫測定チップでは難しかった定量的な分析が可能になりました。
従来は、高額な大型測定装置を使用し、複数のステップを必要としていた定量的な分析を、2ステップ(サンプルの分離、測定)で簡便に行うことができます。
従来の測定装置では数時間かかっていた定量的な分析を、20分間で迅速に行うことができます。
チップの素材は安価なガラスファイバーとアクリル板のため使い捨てが可能で、分離と測定に複雑な装置を必要としないため、小型で低価格のシステムが実現できます。
癌マーカーの検出といった、定量的な分析が必要な免疫測定を用いた検査への活用が期待されます。
定量免疫測定法として、小規模な医療施設での「その場での検査」(ポイントオブケア検査(POCT)(注3))の貢献が期待されます。

平成24年10月23日 記者発表資料 370KB pdfアイコン

研究の概要

  財団法人神奈川科学技術アカデミー(略称:KAST(カスト))の「バイオマイクロシステム」プロジェクト(プロジェクトリーダー 竹内昌治)は、株式会社森永生科学研究所(神奈川県横浜市、代表取締役社長 伊藤建比古)、光産業創成大学院大学(静岡県浜松市 理事長 晝馬明)と共同して、簡便な操作のみで、短時間(20分)にサンプルの定量分析が可能な免疫測定チップの開発に成功しました(右図)。
  現在、大がかりな装置を必要とせず、その場で低コストに使用できる簡便な免疫測定法として、インフルエンザ検査などにイムノクロマト法が広く普及しています。しかし、取扱い易い反面、B/F分離(注4)が不十分であることから定性分析(注5)しか行えず、その用途が限られています。
  本研究は、POCTに有用なイムノクロマト法の形態のメリットを保ちつつ、定量分析ができる免疫測定チップを開発することを目的としています。免疫測定チップの流路素材としてガラスファイバーシートを採用し、電圧を加えることで発生する電気浸透流を利用して、免疫測定において重要なB/F分離を可能にしました。モデルサンプルとして、炎症反応や心筋梗塞の指標となるC反応性蛋白(CRP)を用いた実証試験(サンプル量2.5μL)では、20分間でサンプル濃度を定量的に決定することができました(検出限界:8.5ng/mL)。
  定量分析が可能な大型測定装置は一台あたり数千万円と高額ですが、開発したシステムはチップと電源・光源・光検出器のみで構成されていることから、従来の十分の一以下にコストを抑制でき、小規模医療施設や在宅医療のPOCTをはじめとする、様々な分野での活用が期待されます。
  本研究成果は、英国王立化学会の科学誌「Lab on a chip」(電子版:10月23日予定)に掲載されます。
論文タイトル「A glass fiber-sheet based electroosmotic lateral flow immunoassay for point-of-care testing」

【用語】
注1: 免疫測定:抗体は、抗原となる特定のタンパク質や病原菌等の物質に結合する性質があります。免疫測定では、測定したい特定の抗原にのみ結合する抗体によって、血液や尿等のサンプルから、その中に含まれる抗原を検出し、検査・診断を行います。
注2: 電気浸透流:ガラスファイバーのような多孔質の固体と液体が接している界面には、電気の二重層ができます。今回の場合では、ガラスファイバー側がマイナス、液体側がプラスの二重層ができます。ここに電圧をかけると、液体のプラスの電荷部分が陰極側に動き出し、それに引かれて液体も陰極へ動きます。この液体の流れを電気浸透流と言います。
注3: POCT:診察室や病棟等「その場での検査」の総称です。緊急医療や自宅での自己検査等に利用され、検査による負担も少なく、適切な診療に役立つ検査方法として注目されています。
注4: B/F分離:Bはbound(結合)、FはFree(遊離)のことを示しており、抗原に結合した抗体と結合していない抗体を分離することを言います。
注5: 定性分析:試料中の対象となる抗原の「あり」「なし」のみを判定します。定量分析では、「あり」「なし」だけでなく、サンプル中の抗原の量を決定します。

研究の背景

  免疫測定は、抗原と抗体の特異的な相互作用を利用して、疾患由来のタンパク質や病原菌等を検出する分析方法として、医療・バイオ・食品・環境等の分野で用いられています。
  免疫測定の一つとして、妊娠検査やインフルエンザ検査等で用いられるイムノクロマト法が知られています。イムノクロマト法は、低コストで大がかりな装置を必要としません。さらに、短時間で検査対象の抗原の検出ができるため、その場ですぐに結果が分かる検査法として、医療現場等で広く普及しています。しかし、測定には比較的多量のサンプル(~100μL)が必要となります。また、毛細管現象のみで反応と洗浄を行うため、B/F分離が不十分であることから、定性分析しか行えず、また判定誤差が見られることがあります。従って、抗原の「あり」「なし」だけでなく、抗原の量がわからないと診断できず、例えば、癌やホルモン分泌の異常が原因の疾病等の検査には適していません。
  一方、正確に定量可能な免疫測定法として酵素免疫測定法や化学発光免疫測定法が普及していますが、B/F分離のために、反応・洗浄操作を数回行う必要があります。複雑なB/F分離を全自動のポンプシステムでおこなう臨床用の大型免疫測定装置は、精度よく同時多検体測定が可能ですが、一台あたり数千万円と高額なため、患者数が多く、規模の大きな医療機関でなければ実施することが困難です。
  正確な定量免疫測定を一般診療所等の小規模施設でも実施できれば、迅速で適切な診断・治療が行えるようになり、医療の質、患者のQOL向上につながると考えられます。そのため、迅速・簡便・低コストといったイムノクロマト法の利点を活用しながら、定量分析ができる免疫測定法の確立が求められてきました。

研究の内容

  イムノクロマト法では、毛細管現象によってB/F分離を行っています。しかし、毛細管現象による溶液の流れは弱く、十分なB/F分離を行えないところに問題がありました。そこで本研究では、ガラスファイバーシートを免疫測定チップの流路の素材として採用し、液体を満たしたガラスファイバーシートに電圧をかけることで発生する電気浸透流を利用して、B/F分離を行うことを考えました。ガラスファイバーシートは物質の移動に十分な強さの電気浸透流を発生させることができます。
  電気浸透流を利用したB/F分離を正確に行うためには、ガラスファイバーシート中の液体の流れをコントロールすることが重要です。今回開発した免疫測定チップでは、ガラスファイバーシートをアクリル板で挟み込んだ形状にすることで、ガラスファイバーシート側面からの液体の漏れ出しを防ぎ、正確な液体の流れの制御を可能にしました。
  開発した免疫測定チップにおけるB/F分離と測定は次のように行います(右下図)。

① サンプルウェルに、抗原を含むサンプル及びマイクロビーズ(直径34μm)を入れます。マイクロビーズの表面には抗原を捕捉する抗体を多数固定化しており、サンプル中の抗原は、このマイクロビーズに結合します。マイクロビーズは、ガラスファイバーシートの網目構造の隙間(5~10μm)よりも大きいため、マイクロビーズ上の抗原は電気浸透流によって流されずサンプルウェルに留まります。サンプルウェルの上流には、抗原に結合する、マイクロビーズ上の抗体とは別の抗体を入れます。この抗体は、蛍光を発するように設計されています。蛍光を発する抗体は、ガラスファイバーシートの網目構造より小さいため、電気浸透流によって下流のサンプルウェルへ流されます。
② サンプルウェルにたどり着いた蛍光を発する抗体は、マイクロビーズ上の抗原と結合します。
③ 抗原と結合しなかった余分な、蛍光を発する抗体は、電気浸透流によりサンプルウェルからさらに下流へ流されます。
測定:サンプル中の抗原の量が多いほど、抗原と結合してサンプルウェルに留まる蛍光を発する抗体の量が多くなります。そのため、サンプルウェルの蛍光の強さを数値化することで、サンプル中の抗原の量を決定することができます。この一連の作業は、反応5分、B/F分離15分の計20分で完了します。
④ モデルサンプルとして濃度既知の、炎症や心筋梗塞のマーカーとして用いられるCRP及び糖代謝異常を示す疾患(糖尿病,低血糖)の診断等に用いられるインスリンを用いて、作製した免疫測定チップの実証実験を行いました。得られた蛍光の強さは、サンプル濃度と良く一致し(検出限界はCRPで 8.5ng/mL、インスリン で17ng/mL)、開発した免疫測定チップでサンプルの定量分析が可能であることが実証できました。

今後の予定

  今回開発したチップにより、迅速・簡便・低コスト(ガラスファイバーシートとアクリル板は共に安価な材料)な定量免疫測定を実現します。今後は、多くの標的物質(抗原)に対応するための検出感度の向上と実用化に向けた操作性の改良を行います。
  将来的には簡易・高感度免疫測定法として、小規模施設を含む医療機関でのポイントオブケア検査(POCT)での活用により、迅速かつ適切な診療・看護・疾病予防へ貢献し、医療の質と患者のQOL向上につながることが期待されます。

お問い合わせ先

イノベーションセンター  研究支援グループ 滝元、遠藤
川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP西棟6階
TEL:044-819-2034  FAX:044-819-2026  E-mail: takimoto@newkast.or.jp

 
株式会社森永生科学研究所 小山
横浜市金沢区幸浦2-1-16
TEL:045-791-7673 FAX:045-791-7675  E-mail y.oyama@miobs.com

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