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研究成果が米国の学術雑誌PLoS ONEに掲載

~健康診断ではわからない「貧血のない鉄欠乏」をニュートリゲノミクスの手法で解析 食事による鉄不足が肝臓に及ぼす影響を解明~

概要

  公益財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST)の健康・アンチエイジングプロジェクトの研究成果として、阿部啓子(プロジェクトリーダー、東京大学大学院特任教授)、亀井飛鳥(KAST常勤研究員)らの「短期間の鉄欠乏食摂取がラット肝臓の遺伝子発現プロファイルに及ぼす影響」についての報告が米国の学術雑誌PLoS ONEに掲載されました(オンライン、6月5日)。

要点

○ラットに鉄欠乏食を与えたところ、3日間で「貧血のない鉄欠乏」の状態となった。

○遺伝子発現の解析により、鉄欠乏食摂取が肝臓の栄養素代謝や刺激応答機能に及ぼす影響を示した。

○鉄欠乏食摂取期間が短期(=「貧血のない鉄欠乏」状態)と、長期(=「貧血」状態)の二群について、発現変動した遺伝子を比較し、挙動が異なるものがある事を示した。

 鉄欠乏食を短期間(3日間)与えたラットでは、一般的に健康診断で貧血の指標とされる血中ヘモグロビン量の変化がない、貧血予備軍の状態(「貧血のない鉄欠乏」)となる事が示されました。このラットについて、ニュートリゲノミクスの手法を用いて解析を行ったところ、肝臓での遺伝子発現が変動しており、鉄欠乏が様々な代謝系へ影響を与えると報告しています。

 また、「貧血のない鉄欠乏」状態である短期(3日間)鉄欠乏食摂取実験の結果を、「貧血」状態である長期(17日間)鉄欠乏食摂取実験(Physiological Genomics, 2010)の結果と比較したところ、その多くが短期・長期で異なる挙動を示すことが明らかとなりました。これは、同じ鉄不足という状態でも、その程度(体内の貯蔵鉄の状態)により生体の応答が異なる事を示唆しています。

研究背景

 鉄は体内での様々な反応に関与する、重要な物質です。食事による鉄の供給が不足した場合などでは、血中で実際に機能している鉄より先に体内で貯蔵されている鉄が利用され減少するため、すぐに貧血症状は表れません(「貧血のない鉄欠乏」)。症状が出ないため焦点を当てた研究は多くありませんが、日本では約20~40%の女性が「貧血のない鉄欠乏」であるといわれています。本研究では、この「貧血のない鉄欠乏」に焦点を当て、食事からの鉄不足が生体に及ぼす影響を、ニュートリゲノミクスの手法を用いて解析しました。

研究内容

 食事による鉄不足のモデルとして、ラットに鉄欠乏食を与えたところ、3日という短期間で「貧血のない鉄欠乏」となる事が示されました。
 肝臓は鉄の貯蔵臓器であり、かつ様々な栄養素代謝を司る臓器でもあります。鉄が不足した場合、肝臓における鉄貯蔵量が変動し、様々な変化が生じると考えました。そこでニュートリゲノミクスの手法を用い、「貧血のない鉄欠乏」状態のラット肝臓の遺伝子発現解析を行った結果、貧血の症状がなくても、鉄不足に応答して多くの変化が生じることが明らかになりました。特に糖、脂質といった栄養素代謝や刺激応答などに関与する遺伝子の発現が顕著に変動していました。
 発現が変動した遺伝子について、「貧血のない鉄欠乏」の状態である短期鉄欠乏食摂取実験の結果を、「貧血」の状態である長期鉄欠乏食摂取実験の結果と比較し、①短期摂取・長期摂取で同じ挙動を示す、②短期摂取のみに表れる、③短期摂取・長期摂取で相反する挙動を示す、という3条件に分類したところ、最も多いと予測していた①よりも②と③を合わせた遺伝子数のほうが多いことが明らかになりました。これは、同じ鉄不足であっても、その程度によって生体応答が異なることを示しています。

今後の展開

 本研究により、貧血症状が出る前の「貧血のない鉄欠乏」でも、肝臓の栄養素代謝や刺激応答機能に影響を及ぼす事、また鉄不足でも程度の違いによって生体応答が異なることを示しました。今後もデータを蓄積し、鉄やその他のミネラルについて、摂取量の過不足が生体に及ぼす影響をニュートリゲノミクスの手法により解析していきます。

用語説明
・ニュートリゲノミクス:
ニュートリション(栄養)+ゲノミクス(遺伝子科学)の造語で、栄養素・食品を摂取した時に起こる生体内の変動を、遺伝子レベルで明らかにする学問。

・PLoS ONE:
米国Public Library of Science社より刊行されている科学・医学分野で比較的高いインパクトファクターを持つオープンアクセス型の科学雑誌である。

記者発表資料

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