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ガラス基板上に単結晶に匹敵する品質の酸化物薄膜結晶を成長
―酸化物ナノシートを種結晶にした横方向結晶成長

公益財団法人神奈川科学技術アカデミー    独立行政法人 物質・材料研究機構    国立大学法人 東京大学

ポイント

酸化物ナノシート(注1)を種結晶にした横方向結晶成長(注2)法を開発し、数マイクロメートル以上サイズで配向の揃った結晶粒からなる酸化物薄膜結晶の成長に成功
開発した手法を酸化チタン透明導電膜(注3)に適用し、単結晶薄膜に匹敵する電気伝導率と電子移動度を達成
代表的なエレクトロニクス材料であるチタン酸ストロンチウム(注4)薄膜結晶にも適用可能
標記研究に関する論文が、5月27日に以下の雑誌に掲載されました!
雑誌名:ACS Nano
論文タイトル:“Lateral Solid-Phase Epitaxy of Oxide Thin Films on Glass Substrate Seeded with Oxide Nanosheets”
著者:Kenji Taira, Yasushi Hirose, Shoichiro Nakao, Naoomi Yamada, Toshihiro Kogure, Tatsuo Shibata, Takayoshi Sasaki, and Tetsuya Hasegawa
DOI番号:10.1021/nn501563j
アブストラクトURL:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/nn501563j

 
図1.(左図)作製した酸化チタン薄膜の原子間力顕微鏡像。結晶粒の中心に、種結晶となったナノシートが存在することが確認できる。
(右図)電子後方散乱回折法で決定した結晶粒の配向マップ。黒線で囲まれた領域が個々の結晶粒に対応し、色が配向をあらわす。全ての結晶粒が(001)配向にそろっていることがわかる。
 

平成26年6月4日 記者発表資料 764KB pdfアイコン

研究の概要

  公益財団法人 神奈川科学技術アカデミー(略称:KAST(カスト))の実用化実証事業において、長谷川 哲也(東京大学教授、KAST研究代表者)、廣瀬 靖(東京大学助教、KAST研究員)、平 健治(東京大学大学院生、KAST研究協力員(当時))らの研究グループは、佐々木 高義(独立行政法人 物質・材料研究機構フェロー)らと連携し、安価なガラス基板上に高品質な酸化物薄膜結晶を成長する手法を開発しました。
  目的物質の非晶質(注5)薄膜を熱処理によって結晶化させる固相結晶化法は、数~数10マイクロメートルサイズの大きな結晶粒からなる薄膜結晶の成長手法として知られています。しかし、ガラスやプラスチックのような安価な基板上では、結晶粒の配向を制御することが出来ないため、異方性の大きな材料では十分な性能を得られないことがありました。
  研究グループは今回、酸化物ナノシートと呼ばれる厚さ1 nm程度のシート状の単結晶をガラス基板に塗布し、固相結晶化法の種結晶とすることで、数マイクロメートル以上の大きさで配向の揃った結晶粒からなる薄膜結晶の成長に成功しました。この手法を用いてガラス基板上に作製した酸化チタン透明導電膜は、単結晶薄膜に匹敵する低い電気抵抗(3.6×10-4Ωcm)と移動度(注6)(13cm2V-1s-1)を示しました。
  今回開発した手法は、酸化チタンだけでなく、代表的なエレクトロニクス材料であるチタン酸ストロンチウムにも適用できることを確認しており、酸化物薄膜結晶を用いた低コストで高性能なデバイスの開発につながると期待されます。

発表内容

<研究の背景と経緯>
  高品質な薄膜結晶の成長は、エレクトロニクスデバイスの高性能化に極めて重要です。配向が制御された欠陥の少ない薄膜結晶を得る手法としては、結晶構造が類似した単結晶基板上でのエピタキシャル成長(注7)が一般的ですが、単結晶基板には高コスト・大面積化が難しいといった課題があります。このため、ガラスやプラスチックといった安価なアモルファス基板上で配向の揃った薄膜結晶を得るための手法が研究されています。
  このような手法の一つに、物質・材料研究機構が2009年に発表したナノシートシード層法(参考文献1)があります。ナノシートシード層法では、層状酸化物結晶を剥離して得られる厚さ1 nm程度の2次元結晶(酸化物ナノシート)をガラス基板上に敷き詰めて擬似的な単結晶基板として利用します。この手法は、配向の揃った薄膜結晶を得るための優れた方法ですが、個々の結晶粒のサイズが酸化物ナノシートの大きさ(一般的に数マイクロメートル以下)に制限されるという問題がありました(図2)。

<研究内容と得られた結果>
  KASTの研究グループは、ナノシートシード層法を固相結晶化法と組み合わせ、結晶粒を数マイクロメートル以上の大きさまで横方向に成長させることに成功しました(図1)。固相結晶化法は、目的物質の非晶質薄膜を基板上に堆積し、熱処理によって大きな結晶粒からなる薄膜結晶を得る手法です。新たに開発した手法では、はじめにガラス基板上に酸化物ナノシートをまばらに塗布し(第一シード)、目的物質のごく薄い薄膜結晶をナノシート上に選択的にエピタキシャル成長させます(第二シード)。この上に非晶質薄膜を堆積して熱処理を行うと、第二シードを種結晶とした目的物質の横方向結晶成長がおこり、酸化物ナノシートよりも大きな結晶粒を得ることができます(図3)。
  今回の研究では、酸化チタン透明導電膜に本手法を適用し、最大で10マイクロメートル程度の大きさで、かつ配向の揃った結晶粒からなる薄膜結晶を得ることに成功しました(図1)。その結果、ガラス基板上に作成した酸化チタン透明導電膜としては最も低い3.6×10-4Ωcmの電気抵抗率を達成しました。さらに、電子の動きやすさを表す移動度は13cm2V-1s-1で、単結晶基板上に作成したエピタキシャル薄膜に匹敵する値でした。この優れた特性は、本手法によって結晶配向の制御と粒界散乱の抑制が同時に実現された結果です。



図2.従来のナノシートシード層法と
今回開発した結晶成長法の模式図


図3.今回開発した結晶成長法の手順。右の写真は、横  
方向成長中の結晶粒の光学顕微鏡写真。濃い緑の正方  
形がナノシートを種結晶として成長した結晶粒をあらわす。

<今後の展開>
  今回開発した手法は、酸化チタン透明導電膜だけでなく、代表的な酸化物エレクトロニクス材料であるチタン酸ストロンチウムにも適用できることが確認されています。簡便な方法で安価なガラス基板上に高品質な薄膜結晶を成長することが可能なため、酸化物薄膜結晶を用いた低コストで高性能なデバイスの開発につながると期待されます。
  本研究の一部は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)研究領域の「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」の研究課題「無機ナノシートを用いた次世代エレクトロニクス用ナノ材料/製造プロセスの開発」の研究の一環として実施されました。また、試料評価の一部は文部科学省の支援を受けた東京大学先端ナノ計測ハブ拠点で行いました。

用語解説

注1)酸化物ナノシート:溶液中でのイオン交換プロセスによって層状酸化物結晶を剥離して得られる厚さ1 nm程度の2次元的な単結晶。
注2)横方向結晶成長:薄膜の面内方向に結晶を成長させる技術。通常の手法では薄膜結晶は面直(縦)方向に成長する。
注3)酸化チタン透明導電膜:アナターゼ型の二酸化チタン(TiO2)に微量のニオブ(Nb)を添加した材料。可視光に対して透明でかつ高い電気伝導性を示す。希少元素であるインジウムを含まない透明電極材料として応用が期待されている。
注4)チタン酸ストロンチウム(SrTiO3):ペロブスカイト型結晶構造を持つ酸化物半導体で、エレクトロニクスデバイスへの応用が最も盛んに研究されている物質の一つ。様々な酸化物薄膜結晶の成長用基板としても広く用いられている。
注5)非晶質:ガラスのように、物質中の原子が結晶のような長距離的な秩序構造を持たずに存在している状態。
注6)移動度:半導体中での電子の動きやすさ。この値が大きいほど電子が高速に移動でき、電気伝導度が高くなる。
注7)エピタキシャル成長:格子定数が一致した単結晶基板結晶の上に、類似の結晶構造を持つ薄膜結晶を成長させる手法

参考文献

1)“One-Nanometer-Thick Seed Layer of Unilamellar Nanosheets Promotes Oriented Growth of Oxide Crystal Films” T. Shibata et al., Advanced Materials 20 (2008) 231-235.

お問い合わせ先


(研究に関する問い合わせ)
東京大学大学院理学系研究科化学専攻   教授 長谷川哲也
TEL:03-5841-4353   E-mail: hasegawa@chem.s.u-tokyo.ac.jp

(取材に関する問い合わせ)
公益財団法人神奈川科学技術アカデミー   イノベーションセンター 川嶋、前川
TEL:044-819-2034   E-mail:kawashima@newkast.or.jp

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