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シャボン玉のように人工細胞膜を形成!!
研究成果がNature Chemistry誌に掲載されます

概要

  公益財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST(カスト)、理事長:馬来義弘)は、科学技術活動を展開し、産学公連携の取組を通じて、地域経済の活性化と生活の質の向上に貢献することを目指しています。

  このたび、KAST人工細胞膜システムグループ(グループリーダー:竹内昌治 東京大学生産技術研究所 教授)の研究成果がNature Chemistry誌に掲載される運びになりました。Nature Chemistry誌は、世的に権威のある学術誌Natureの中でも他の論文に引用される回数であるインパクトファクター(用語1)の高い化学系学術誌です。

 本グループでは細胞膜のリン脂質非対称性を模倣した球状人工膜であるリポソーム(リン脂質組成非対称膜リポソーム(用語2,3))の作製に成功し、リン脂質非対称膜と生体分子の相互作用観察に成功しました。今回作製に成功したリン脂質組成非対称膜リポソームは、活性条件の発見等の基礎研究分野のみならず、薬物キャリア等へのドラッグデリバリーシステム(用語4)への応用も期待されます。
 
 真核細胞(用語5)の膜構造は、内膜と外膜が異なるリン脂質種で構成される脂質二重膜(リン脂質非対称膜)を形成し、生物学的反応に影響を及ぼすことが知られています。細胞の生体反応を模倣するために、マイクロ流体デバイス(用語6)を用いたリン脂質組成非対称膜リポソーム作製は盛んに行われています。リポソーム形成時に使用する有機溶媒(n-デカン等)がリポソーム膜内に多く残留し、この残留有機溶媒がリポソームの安定性等に影響を与えます。そこで、残留有機溶媒が少ないリン脂質組成非対称膜リポソームの作製が求められています。
 
 今回、本グループの竹内リーダーおよび神谷厚輝研究員らは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)技術を利用し(図2)、有機溶媒層が存在しないリン脂質組成非対称膜リポソームの作製に成功しました。リン脂質平面膜面積やジェット水流を加える時間等の制御により、リン脂質平面膜からリン脂質マイクロチューブが形成され、このリン脂質マイクロチューブの不均一な変形によって有機溶媒の不均一な局在が生じ、有機溶媒層が存在しないリポソーム形成に成功しました(図1,3)。そして、膜と相互作用するペプチドをリン脂質組成非対称膜リポソームに添加したところ、リン脂質のフリップ-プロップ(用語7)が通常の10倍促進されました。さらに、外膜に負電荷のリン脂質が存在する非対称膜組成では、膜タンパク質の取込みが増大することが明らかになりました(図4)。この結果は、生体膜がリン脂質組成非対称膜である意義の1つを示唆する結果であると考えます。このリン脂質組成非対称膜リポソームを用いることで、ペプチドやタンパク質の未知機能や活性条件の発見が期待され、さらに今後の人工細胞モデル構築研究における基盤技術や薬物キャリア等へのドラッグデリバリーシステムへの応用も期待されます。本研究は、東京大学および京都大学の協力のもと行われました。なお本研究内容は、6月9日東京大学生産技術研究所にて記者会見しております。

図1 本作製法のリポソーム形成過程

図2 リン脂質組成非対称膜リポソーム作製デバイス
8の字型のダブルウェルの間に薄いアクリルフィルムが配置されており、ウェル間でリン脂質が混和しないようになっています( セパレータ)。セパレータに約200 µm の孔があいており、その孔に平面リン脂質二重膜が形成されます。

図3 有機溶媒層が存在しないリポソーム形成の模式図
開発した人工細胞膜チップを、小型パッチクランプアンプ(テセラ社製)を装着し、富士山頂上での膜タンパク質イオン電流測定に成功した。

 
図4 リン脂質非対称膜リポソームへの膜タンパク質の取込み
無細胞タンパク質発現系によりコネキシンをリポソーム外から発現
させました。コネキシンは4 回膜貫通タンパク質で、6 量体を形成し
ナノポアを形成しました。負電荷のリン脂質PSが外膜にある場合、
コネキシンの取込みが増大しました。
スケールバー: 10 μm

用語

※1. インパクトファクター(文献引用影響率):
特定のジャーナル(学術雑誌)に掲載された論文が特定の年または期間内にどれくらい頻繁に引用されたかを平均値で示す尺度。(トムソン・ライター ホームページより)
 
※2. リン脂質組成非対称膜:
脂質二重膜の外膜と内膜で異なったリン脂質分子の構成を言う。例えば、真核細胞の形質膜は、主に、外膜にはホスファチジルコリンやスフィンゴミエリンが多く存在し、内膜にはホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンが多く存在している。
 
※3. リポソーム:
リン脂質二重膜から構成され内部に水相をもつ閉鎖小胞。リポソームは生体膜の脂質二重膜部分の動態を検討するうえで有効なモデル系ある。また、膜タンパク質を再構成することや、内水相や脂質二重膜に種々の物質を保持できることからバイオリアクタやマイクロカプセルとして応用が盛んである。特に、細胞サイズリポソーム(直径1 um以上)は、光学顕微鏡で容易に観察できるため、人工細胞モデル研究で盛んに用いられている。
 
※4.ドラッグデリバリーシステム:
体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする薬物伝達システムのことである。本件は薬物を含むリポソームを介する事で薬物を必要最低限の量で、必要な時間、必要な場所へ、狙い通りに届ける薬物輸送を想定する。
 
※5.真核細胞:
細胞は原核細胞と真核細胞の2種類に分類される。植物と動物はすべて真核細胞からできている。真核細胞の方が複雑な構成をしており、ミトコンドリア、葉緑体などの細胞小器官を持つ。また真核細胞は、原核細胞にない細胞内部の膜構造を持つ。
 
※6.マイクロ流体デバイス:
MEMS技術などの微細加工技術を利用して作製された、微小流路や反応容器の総称。近年、バイオ研究や化学工学分野等への応用が盛んに行われている。
 
※7. フリップ-フロップ:
リン脂質二重膜の外膜-内膜間のリン脂質の反転運動。

 

 問い合わせ先

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地域イノベーション推進グループ    水野・山本
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